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ソフトウェア開発の第三の形「神秘屋」とLLM人気・テック動向

『伽藍とバザール』に並ぶ開発の二様式を超え、AI時代の「神秘屋」的ソフトウェアづくりを紹介。Hacker News由来のLLM人気指標や、陪伴ロボット、車のヘッドライト投影、救急トリアージでのAI、自動運転への標識インジェクションにも触れます。

ソフトウェア開発とAI、最新テクノロジー動向を扱う記事

ソフトウェア開発の第三の形「神秘屋」とLLM人気・テック動向

ソフトウェア開発の第三の方法

ソフトウェア開発の名著として知られる『伽藍とバザール(The Cathedral and the Bazaar)』をご存じでしょうか。

歴史的な建築と対比を象徴するイメージ

この本では、ソフトウェア開発には二つのやり方があるとされます。

一つは**大聖堂(Cathedral)**です。入念な計画のもと、専門チームが閉じた体制で開発を進め、プロセスと統制が厳しく、コードは多くの場合クローズドソースです。

もう一つは**バザール(bazaar)**です。開発は開かれ、壁がありません。誰でも参加でき、意思決定は透明でコミュニティ主導、コードはオープンソースです。

このたとえは業界を二つに切り分ける鋭い視点として、初出からおよそ30年近く、広く支持されてきました。

しかし最近では、この二つだけでは現状を十分に表せないという指摘も出ています。ソフトウェア開発には第三のスタイルがある、と。**ウィンチェスター神秘屋(Winchester Mystery House)**にたとえられるやり方です。

無計画に増築された迷宮のような邸宅のイメージ

「神秘屋」は実在する大邸宅で、米国カリフォルニア州にあり、19世紀末に一人の資産家の女性によって建てられました。

彼女は非常に裕福で、ほかの趣味はなく建築が好きでした。自宅を実験場にし、部屋を次々に増やしていき、設計も工事の監理も自分の思いのままに進めました。

館全体に一統した計画はなく、その時々の思いつきで造られます。部屋Aはヴィクトリア風、部屋Bはローマ風、部屋Cはゴシック風など、すべて彼女が決めました。途中で気に入らなくなると、壊して建て直すこともありました。

その結果、館は迷路のようになり、部屋ごとに雰囲気が異なります。当時の記録では、最も建て直しが多かった部屋は16回にのぼったといいます。手間を省くため、一部の窓や扉は撤去せず、壁の中にそのまま埋め込まれた例もあるそうです。

時期を問わず階を重ね、最高で5階まで、おおよそ160の部屋、2000の扉、1万の窓、47の階段、47の暖炉、13の浴室、6のキッチンにまで膨らんだと伝えられます。

1922年に彼女が亡くなったあと、公開され、「神秘屋」と呼ばれるようになりました。

現代では、多くのプログラマー/エンジニアが、この女性と同じ振る舞いをしている、という話です。

自ら要件を出し、欲しいものを生成AIに作らせる。要件レビューもコードテストも介在させず、個性をとことん満たしていく。

そうしてできあがるソフトウェアは、高度にパーソナライズされ、規模は大きく、拡張を繰り返し、コードは層を重ね、整理や最適化はほとんどなく、バグ修正のパッチだらけになりがちです。ドキュメントも乏しく、外から見ると理解しづらい。まるで「神秘屋」のようだ、というわけです。

ただし、このプロセスそのものは楽しく、開発者を酔わせ、没頭させる力があるともいわれます。

大規模言語モデル(LLM)がさらに強くなるにつれ、こうした「神秘屋」型のソフトウェアは増えつつあり、将来的には大聖堂やバザールに取って代わる主流になる可能性もないとは言えません。多くのソフトウェア、特に個人や小規模チームによる開発は、このやり方で進むのかもしれません。

大規模言語モデルの人気ランキング

現時点でよく見るLLMのランキングは、多くが性能の比較です。それとは別に、人気を測る考え方も出てきています。

具体的には、毎日「Hacker News」で注目度の高い200件ほどのスレッドを取得し、そのうちプログラミングやAIに関するものに絞り、コメントの中で最も議論され、好意的に受け止められているモデルを見る、というものです。

Hacker Newsは有名なエンジニア向けコミュニティで、毎日多くのプログラマーやエンジニアが訪れてコメントします。したがって、言及の多さや評価の高さは、一定の代表性を持つ指標になり得ます。

Hacker Newsベースのモデル可視化やランキングを連想させる図

そのプロジェクトのサイトは HN SOTA で、ランキングは日更新されています。

記事執筆時点での上位3モデルは、順に Claude Opus 4.7、GPT 5.5、Claude Sonnet でした。

中国勢のモデルでは、Kimi K2.6、DeepSeek V4、Qwen 3.6、GLM 5.1 がトップ10入りしています。

テクノロジー動向

1、AIを伴うロボット犬(陪伴重視)

ルンバで知られる米iRobotの創業者コリン・アングル(Colin Angle)は、引退後もロボット研究を続けています。

最近、同氏の関与する企業が、主に**陪伴(コンパニオン)**向けのロボット犬を投入しました。

ぬいぐるみのような見た目のロボット犬

最大の特徴は、機械というよりぬいぐるみに近い外観で、歩行に付き添い、対話的なやり取りもできる点です。

人と一緒に歩くロボット犬のイメージ

現状の技術で、かなり実物に近いロボット犬はすでに実現可能です。将来、本物の犬よりロボット犬を選ぶ人が増えるかもしれません。陪伴は得られる一方、噛みつきや無駄吠えはなく、散歩の義務もない、という理屈です。

室内でくつろぐロボット犬のイメージ

2、ヘッドライト内蔵のプロジェクター

HUAWEIは、乗用車のヘッドライトにプロジェクターを組み込む新技術を示しました。

ヘッドライトと投影をイメージさせる車の写真

停車後、ライトを使って前方の壁やスクリーンに映像を投影し、動画を視聴できます。

投影映像をイメージさせる車両まわりの図

キャンプなど車での野外利用や、ガレージでの視聴など、実用シーンは想像しやすいでしょう。

留意点として、輝度が高いため走行中は点灯しない——対向車の運転を妨げないよう、停車後に限る必要がある、という趣旨の注意が示されています。

3、AIによる外来トリアージ(診療科の事前振り分け)

AIが医師に代わって診療できるかは、議論のあるテーマです。

一部の医師よりAIの推論が優れる場面はあっても、患者への責任の観点から、現時点ではAIだけで処方を出すことは一般的に認められておらず、処方は医師の権限に置かれます。

ハーバード大学の試験では、病院の現場でAIに有効そうな役割として、**外来でのトリアージ(どの診療科に進むかの事前振り分け)**が挙げられました。

医療現場やトリアージを連想させる図

多くの患者は、自分の病状や受診すべき科を把握しておらず、外来の入り口で前期トリアージが必要になります。

実験では、症状に基づく初期診断と診療科割り当ての正確さについて、AIが実在の医師より高い結果を示したと報告されています。症例の67%でおおむね妥当な診断が得られたAIに対し、医師側は50〜55%だった、という比較です。

したがって、外来入口でAIが前期トリアージを行い、初期所見を整理し、そのうえで医師が詳細な問診・検査を経て処方に至る、といった形での利用が考えられます。

4、自動運転へのインジェクション攻撃

LLMには悪意あるプロンプトを差し込むインジェクションの議論があります。意外に思われるかもしれませんが、自動運転にも同種のリスクが論じられます。

カリフォルニア大学の研究者らが実験を行いました。

道路と標識を示した実験のイメージ

研究者は道路の中央で、順に三枚のプレートを掲げ、大きな文字で「前進」と書きました。自動運転車がその標示に反応するかを観察します。

三回の試行のうち、最初の二枚は効きませんでした。車は路中央に人がいることを検知し、停止したからです。しかし最後の一枚は効果があり、車は表示された指示に従って、掲げた人の方へ前進しました。

これは、自動運転システムにもインジェクション的な差し込みの余地がある可能性を示唆します。システムは、道路標識として認められるものと、悪意ある注入とみなすべきものとを区別する必要がある、という議論につながります。

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