中国AI大手訪問記——算力・効率・オープンソースの現場感
中国AI大手訪問記
今年5月上旬、ある米国訪問団が中国を訪れ、AIとロボット関連の14社を訪問しました。

訪問先にはDeepSeek、月之暗面、MiniMax、智谱、字节跳动、阿里、蚂蚁、小米、零一万物、宇树、魔搭社区などが含まれます。
メンバーはいずれもテックアナリストで、帰国後それぞれ観感を書いています。Kevin Xu、afra Wang、Florian Brand、Nathan Lambert、Azeem Azhar、Lily Ottinger and Kai Williams、Jasmine Sun、Lingua Sinica、Caithrinなどです。
興味深い記述が多いので、いくつか抜粋します。読みやすさのため、各段落の出典は個別には示しません。
1. 算力の格差
どの会社でも共通して聞いた不満が「算力が足りない」でした。実験回数が減り、モデル規模も小さくなります。
不足の主因は米国のチップ輸出規制です。関心関心は、現地企業がどう対応しているかを直接見たい、という点にありました。
供給が完全に途絶えているわけではなく、NVIDIAのH100、B200、B300は入手できます。ただし数量は米国の競合より少なくとも1桁少ない、という水準です。
最新のGB300 NVL72(最新GPU72基のシステム)は、3年前のH100クラスタよりリアルタイム推論が30倍速く、チップあたりメモリは3.6倍、推論あたり消費電力は1/25です。米企業は大量発注中ですが、中国企業は同じようにはできません。
Huaweiなど国産AIチップも進んでいますが、今年3月発表のAscend 950PRでも性能はおおむね2022年のH100相当。出荷量もH100よりはるかに少なく、NVIDIAが2025年10月までにHopper/Blackwellを700万基出荷したのに対し、Huaweiの今年計画はAscend 950PRで75万基——昨年のNVIDIA出荷の約1/10です。
結果として米国の算力優位は大きく、2025年末時点で米AI業界の算力は中国の約8倍、中国の総算力は米国2023年規模に近い、との見積もりでした。OpenAI内部の研究者1人あたりGPU数を中国側に伝えると驚かれましたが、西側でも「足りない」と文句を言うのは同じだ、という皮肉もあります。
2. 算力の配分
米国の算力の多くは訓練に回り、顧客サービスには回りにくい。中国では訓練に加え、数億の消費者と急成長する企業ユーザーへのサービスも同時に必要です。半分を顧客向けに回せば、訓練用は減ります。
もう一つ、米国の算力はOpenAI、Anthropic、Google、Meta、xAIの5社に集中しがちですが、中国では大手がそれぞれ最前線モデルを自前で開発し、プールがさらに分割されます。
3. 計算効率
算力が2年分遅れならモデルも2年遅れ——という単純な論理は当てはまりません。多くの分析では中国モデルは米国より数か月遅れ程度で、一部では並走に見えます。
チップ規制がかえって計算効率を押し上げた、というのが訪問団の見立てです。単位算力あたりのAI知能は、単純スケール時の4〜7倍に達し、不足を補っている、とのことです。
4. オープンソースの分岐
いま最良のオープンソースAIモデルは中国企業が公開しています。ただし自社モデルを開くかどうかは社内で意見が割れます。
財務状況や売上圧力が意思に影響し、境界線として「パラメータ1兆」がはっきりしてきた、という話がありました。1兆以上はローカルでは動かず、典型的なOSS用途(ローカル実行)に合わないのでクラウドにホストしてAPIだけ出す方が良い、という派と、開源は信仰に近く、兆規模モデルこそ開源の入場券だ、という派です。
5. 西洋化か、中国化か
一部の中国AI企業はシリコンバレー的な雰囲気で、グッズまでその空気をまとっています。別の会社は「中国化」が進み、国有企業CEOや地方幹部向けのショールームと会食を最優先にしています。創業者の背景と選んだ事業タイプの両方が効いている、というのが観察です。
6. 他社への見方
ほぼすべての中国AI企業が、字节跳动のSeed部門を畏敬していました。中国唯一のクローズド最前線チームで、豆包がユーザー流量をほぼ独占し、モデルを一気に大規模ユーザーへ届けられる点が他社にない強みです。
DeepSeekは業界で最も尊敬される会社で、アーキテクチャ、効率、推論最適化、Huaweiプロトコルスタック適応など基盤層の仕事を担う存在になりつつあります。
7. インターン
従業員の多くは才能ある「インターン」で、平均年齢は二十五〜二十六歳、多くはまだ博士課程に在籍し、英語で技術議論ができる層です。大半は中国の大学出身で海外留学経験はありません。
インターン期間は1〜2年、正社員並みの待遇と権限があり、自由に実験できます。OpenAIやAnthropic、Cursorなどはインターンをほぼ置かず、Googleなども重要なタスクは任せにくい——という対比です。新鮮な脳と新しいアイデアを重視し、目立ちにくい改善も厭わない。大学側も計算資源不足から、優秀学生を産業界に送り論文共著でWin-Winを狙う、という構図です。
8. AI安全への態度
若い研究者にAGIをどう見るか聞くと、ほぼ同じ答えが返ってきたそうです。「AGIとは、AIが自分を置き換えることだ」。恐れより、作り手を超えるかへの好奇心が強く、超えたら別のことをすれば良い、という感覚。西側の安全論・社会影響論とは温度差があり、安全は大事だが「悪いことをさせない仕組みは政府が決められるはず」という考え方が多い、とのことです。
9. 中国企業のAI需要
「中国企業はソフトに金を払わないからAI市場は小さい」という通説は、SaaS支出には当てはまりますが、クラウド市場は巨大です。AIをSaaS(小さい)と見るかクラウド(大きい)と見るかが社内論争になっており、いまの流れはクラウド寄りだ、という観察です。
10. データ産業は米国より弱い
AnthropicやOpenAIは訓練データや強化学習環境に年1000万ドル超、累計では億ドル規模をかける、という話があります。中国側では「データ産業がほぼない」「品質が低いので自前準備の方が良い」という答えが多く、研究者は強化学習環境の構築に時間を使い、字节や阿里は社内アノテーションチームで支えています。
11. 政府の役割
シリコンバレーのSequoiaやa16zに相当する「本当の推進者」は誰か。ある友人の答えは、上海・北京・杭州の市政府——FOMOと競争不安に駆られた、働きすぎの役人たちが地元AI産業を必死に押し上げている、というものでした。
これからどう見るか
算力やモデルの「情報」は表に出やすくなりましたが、訪問記が示す本当の差は、制約下でどこに効率を寄せるかという判断です。個人や一人会社は、旗艦GPUの軍拡競争に入るより、オープンウェイトとニッチ用途で深い井戸を掘り、読者・顧客との信頼を資産にする方が勝ちやすい局面です。プラットフォームが注意を集約するAggregation Theoryの世界でも、4万の高価値読者の方が、1億の薄いトラフィックより事業になります。
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